このページの要点
- 損失の定めは「内部の負担割合」「債権者への責任」「運営者の過失の別枠」「分配の制限」の4つに分けて書く。割合だけでは、赤字の場面の争いを防げない。
- 損益の割合を定めなければ出資の価額に応じ、利益または損失の一方だけを定めると両方に共通と推定される(民法674条)。「利益は折半」とだけ書くと、損失も折半になり得る。
- 民法の組合では、債権者は各組合員に損失分担の割合または等しい割合で請求でき(同675条2項)、条文は責任の上限を出資額としていない。匿名組合・有限責任事業組合は仕組みが異なる。
- 損失が残る間の分配は、匿名組合では損失の填補後(商法538条)、有限責任事業組合では分配可能額の範囲(有限責任事業組合契約法34条)に制限される。民法の組合では契約で制限を書く。
赤字になったとき誰がいくら負うのか|損失の定めは4つの層に分けて書く
共同事業の契約書で、損失の定めを「損失は双方で折半とする」の一文で済ませているものは少なくありません。しかし、この一文で決まるのは、当事者どうしの間の負担割合だけです。赤字が出た場面で実際に争いになるのは、次の4つの層のどこかです。
なお、このページでは、資金を出す側を「出資者」、事業を実際に動かす側を「運営者」と呼びます。出資者と運営者のどちらの立場でも、損失の定めは自分の財布に直接響くため、先に4つの層を分けて確認しておくと条文の抜けが見えます。
損失の定めを分けて書く4つの層
- 内部の負担割合当事者のあいだで、損失を何対何で持つか。利益の割合との関係も決める
- 債権者への責任取引先や貸し手から請求されたとき、誰がどこまで支払うか。内部の割合とは別の問題
- 運営者の過失の別枠事業の結果としての赤字と、義務に反して出した損害を分ける
- 分配の制限赤字が残っている間、利益の分配や出資の払戻しをどう止めるか
1つ目だけを書いた契約書が多く、2つ目以降は赤字が出てから初めて問題になります。
民法は、共同して事業を営む契約を「組合契約」と呼びます(民法667条1項)。各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約束すれば、契約書の題名が「業務提携」でも「共同経営」でも、中身が組合契約に当たる可能性があります。損益の分配の割合を定めなかったときは、各組合員の出資の価額に応じて定めるとされています(同674条1項)。この「定めなかったとき」の規定が、実際にはどのような結果を生むのかを、次の節で具体的に見ていきます。
商法の匿名組合や、有限責任事業組合契約法の有限責任事業組合は、損失の持ち方がそれぞれ異なります。型ごとの違いはこのあと表にしますので、どの型で書くかを決める前に、損失の面からも比べてみてください。型の選び方そのものは共同事業の型の選び方で扱っています。
損失の割合を定めなかったとき・利益の割合だけを定めたとき
民法674条は、2つのことを定めています。1項は、損益の分配の割合を定めなかったときは、各組合員の出資の価額に応じて定めるというものです。2項は、利益または損失についてだけ分配の割合を定めたときは、その割合は利益と損失に共通のものと推定する、というものです。
この2項が、実務ではよく効いてきます。たとえば契約書に「利益は折半とする」とだけ書き、損失には触れなかったとします。損失の割合は書かれていませんが、2項により、利益と同じ折半が損失にも当てはまると推定されます。資金を出したのは主に出資者で、運営者は労務を出しているだけという共同事業であれば、運営者は資金を出していないのに赤字の半分を負う形になり得ます。逆に、運営者の側が「損失は出資者が持つもの」と考えていたのに、書面にはそのことが書かれていない、ということも起こります。
損益の書き方と、民法674条による扱い
| 契約書の書き方 | 民法674条による扱い | ずれやすい点 |
|---|---|---|
| 損益の割合を何も書かない | 各組合員の出資の価額に応じる(1項) | 労務を出資とした場合、その価額が決まっておらず計算できない |
| 利益の割合だけを書く(例:折半) | 損失にも同じ割合と推定する(2項) | 資金を出さない側が、損失の半分を負う形になり得る |
| 損失の割合だけを書く | 利益にも同じ割合と推定する(2項) | 損失を軽くする意図が、利益の取り分まで下げてしまう |
| 利益と損失で別の割合を書く | 書いたとおり | どの損失に別の割合が当たるのか、定義がないと争いになる |
表の最後の行は、民法の推定を契約で覆す書き方です。利益は出資割合で分け、損失は出資者が出資額の範囲で、運営者は事業から得られる報酬を失う形で持つ、といった設計は十分にあり得ます。ただし、その場合は、利益と損失の割合が異なることを条文の上で明確にし、「損失」とは何を指すのかを定義しておく必要があります。定義がなければ、割合を別に書いたこと自体の意味が、争いの場面で読み取れなくなります。
労務を出資とした場合の評価も、損失の割合に響きます。民法は、出資は労務を目的とすることができると定めています(同667条2項)。しかし、労務の価額を数字にしておかなければ、「出資の価額に応じて」という基準は使えません。労務・金銭・現物の評価の書き方は共同事業の出資の決め方で詳しく取り上げています。
もう一つ、見落とされやすいのが、運営者への報酬と損失の関係です。運営者への報酬や委託費を「事業の費用」として先に引く設計では、報酬が費用に入る分だけ、赤字は大きくなります。その赤字を出資者と運営者で分けると、運営者は報酬を受け取ったうえで、赤字の一部を出資者に負担させる形になります。反対に、報酬を費用に入れず、利益が出たときの取り分だけで報いる設計であれば、赤字のときは運営者が無報酬で働いたことになります。どちらが当事者の意図かによって、損失の定義も変わりますので、利益の定義とあわせて決めるのが基本です。利益の定義と控除項目は共同事業の「利益」の定義の書き方で取り上げています。
「出資額の範囲で済む」とは限らない|債権者に対する責任
損失の割合を決めても、それは当事者のあいだの話です。事業が取引先への支払いや借入れを抱えたまま赤字になったとき、請求してくるのは当事者ではなく債権者です。債権者との関係は、別の条文で決まります。
民法675条は、組合の債権者は組合財産に対して権利を行使できると定めています(1項)。さらに、債権者は、その選択に従い、各組合員に対して、損失分担の割合または等しい割合で権利を行使することができるとされています(2項本文)。ただし、債権者が債権の発生の時に各組合員の損失分担の割合を知っていたときは、その割合によるとされています(同項ただし書)。条文は、組合員の責任の上限を出資額とはしていません。出資者が「出した金額以上は負わない」と考えていても、組合に当たる共同事業では、出資額を超える請求を受ける可能性が条文上は残ります。
当事者のあいだで「責任は出資額まで」と決めた場合も、その合意だけで債権者に対する責任が限定されるとは、条文からは読み取れません。債権者との契約の中で責任の範囲を取り決めるなど、別の手当てが必要になります。当事者の内部では、払い過ぎた者が、他の者から損失分担の割合に応じて精算を受けられるように、求償(立て替えて払った分を、他の当事者に請求すること)の定めを置いておくのが一般的な書き方です。
匿名組合は、これとは仕組みが違います。匿名組合は、当事者の一方(匿名組合員)が相手方(営業を行う側で、営業者といいます)の営業のために出資をし、その営業から生じる利益を分配することを約する契約です(商法535条)。匿名組合員の出資は、営業者の財産に属します(同536条1項)。匿名組合員は、営業者の業務を執行したり、営業者を代表したりすることができず(同条3項)、営業者の行為について第三者に対して権利も義務も有しません(同条4項)。契約が終了したときは、営業者は出資の価額を返還しますが、出資が損失によって減少していたときは、その残額を返せば足りるとされています(同542条)。つまり匿名組合員は、第三者である債権者に直接責任を負う立場にはなく、損失は出資の減少という形で受け止める構造です。
有限責任事業組合は、さらに別の形です。有限責任事業組合契約は、それぞれの出資の価額を責任の限度として共同で営利を目的とする事業を営むことを約する契約です(有限責任事業組合契約法3条1項)。損益の分配の割合は、総組合員の同意により別段の定めをした場合を除き、会計帳簿に記載された各組合員が履行した出資の価額に応じて定めるとされています(同33条)。
型ごとの損失の持ち方(条文の根拠つき)
| 型 | 内部の損益の割合 | 債権者に対する責任 | 出資の返還の考え方 |
|---|---|---|---|
| 民法の組合 | 定めがなければ出資の価額に応じる(民法674条1項)。一方だけの定めは共通と推定(同2項) | 債権者は組合財産と、各組合員に対し損失分担の割合または等しい割合で請求できる(同675条) | 清算で出資の価額に応じて残余財産を分ける(同688条3項) |
| 匿名組合 | 契約で定める。営業者が営業の主体 | 匿名組合員は第三者に対して権利義務を有しない(商法536条4項) | 終了時に出資の価額を返還。損失で減っていれば残額(同542条) |
| 有限責任事業組合 | 総組合員の同意で別段の定めがなければ、履行した出資の価額に応じる(有限責任事業組合契約法33条) | 出資の価額を責任の限度とする組合契約(同法3条1項) | 分配は分配可能額の範囲に制限される(同法34条) |
どの型が自分たちの事業の実態に合うかは、契約書の題名ではなく、実際の出資の中身、業務の担い手、第三者との契約の名義で決まります。ここで確認したいのは、損失の定めを書く前に、「債権者から見て誰が責任を負う立場なのか」を型の側から押さえておくことです。型の違いが損失の持ち方に直結するため、契約書の損失条項は、型の前提と矛盾しない文言にします。
損失の割合の書き方|均等・出資割合・上限つき・運営者填補
損失の割合を書くときの基本は、数字と、その数字が当てはまる損失の範囲をセットにして書くことです。次の対比は、よくある書き方と、整えた書き方の一般的な例です。例の中では、出資者を「甲」、運営者を「乙」としています。
書き方の例(一般的な例) 損失の割合の書き方
割合そのもの
理由「協議して」では、協議が整うまで負担者が決まらない。負担が決まらないまま追加の資金が必要になる場面で、事業が止まりやすい。
出資者の上限
理由内部の取り決めと債権者に対する責任を分けて書く。債権者に対しては、この上限がそのまま通るとは限らないことを、契約書の上でも明確にしておく。
運営者による填補
理由填補の範囲・期限・方法・累計の上限がなければ、填補するという約束が実現可能かどうか判断できない。上限のない填補は、運営者が引き受けにくい。
利益と損失の割合の違い
理由民法674条2項は、利益または損失だけの割合を共通と推定する。別の割合にしたことを明示して、推定に頼らない書き方にする。
損失の「計算」にも注意が必要です。月ごとの赤字を損失と呼ぶのか、事業年度ごとの収支を見て、前の期から繰り越した損失を含めた累計を指すのか。設備の評価損や回収できなくなった売掛金のような、現金が出ていない損失を含めるか。損失の定義によって、同じ事業でも負担額が変わります。次の帳票は、損失を期間ごとに確定させ、累計で見る書き方の一例です。金額欄は抽象的な表記にしています。
損失の計算の一例(事業年度ごと)
- +当期の売上売上の○円
- -当期に控除できる費用契約で定めた費用の合計○円
- =当期の損益売上-費用の○円
- -前期から繰り越した損失○円
- =累計の損失当期の損益+繰越損失の○円
「控除できる費用」にどこまで入れるかは、費用負担と利益の定義の条文で決まります。損失の計算も、その条文を引用して書くと矛盾が出ません。
書き方の例損失の負担
- 各事業年度の損失は、甲および乙が、甲○%、乙○%の割合で負担する。
- 前項の損失は、当該事業年度の売上から第○条に定める費用を控除した額が負となった場合の、その負の額をいい、翌事業年度以降に繰り越す。
- 甲および乙の間では、甲が負担する損失は、甲が第○条に基づき払い込んだ出資の額を上限とする。ただし、本項は、第三者に対する責任を限定するものではない。
- 甲または乙が、第三者に対し、前各項の割合を超えて支払ったときは、他方に対し、前各項の割合に応じた額の精算を請求できる。
数値は「○%」としています。割合のほか、損失の定義、繰越しの有無、内部の上限、求償の4点が揃っているかを確かめてください。
運営者の故意・過失による損失は別枠で書く
赤字には、事業の結果としての赤字と、運営者が義務に反したために生じた損害が混ざります。景気や需要の変化、価格の下落といった事業の結果としての赤字は、出資者と運営者で分け合うのが普通です。これに対し、運営者が資金を目的外に使った、必要な手続を怠った、報告をしなかったために損害が拡大した、というのは別の性質です。
組合に当たる共同事業で、組合の業務を決定し、または執行する組合員については、民法644条から650条までの規定が準用されます(同671条)。644条は受任者が善良な管理者の注意をもって事務を処理する義務、645条は報告の義務、646条は受け取った金銭などの引渡し、647条は引き渡すべき金額を自己のために消費したときの利息と賠償の責任を定めています。債務不履行による損害賠償の一般規定は415条です。運営者の義務違反による損失は、これらの規定を根拠に、損失の割合とは別に、運営者に請求できる構造になります。
契約書の側でできる工夫は、「事業の結果としての赤字」と「義務違反による損害」を条文で分け、後者の範囲を明確にしておくことです。故意・重大な過失に限るのか、通常の過失も含めるのか。負担する額に上限を置くのか。上限を置くなら、報酬の何か月分、あるいは出資額の何割といった物差しを使うのか。これらは当事者の力関係と事業の性質によって変わりますが、決めていないことが一番の争点になります。
損害の額を定めておく方法もあります。民法420条は、当事者が債務の不履行について損害賠償の額を予定できると定め(1項)、予定をしても履行の請求や解除権の行使は妨げられず(2項)、違約金は賠償額の予定と推定するとしています(3項)。ただし、あまりに過大な額を定めた場合は、公序良俗に反する法律行為として無効とされる余地があります(同90条)。額の予定を使うときは、事業の規模に照らして相当な範囲にとどめます。
書き方の例運営者の義務違反による損失
- 乙の故意または重大な過失により、本事業に損失が生じたときは、当該損失は、前条の割合によらず、乙が負担する。
- 前項の損失の額は、甲および乙が書面で確認した帳簿に基づいて算定する。乙は、算定の基礎となる資料を甲に開示する。
- 乙が第1項により負担すべき額は、各事業年度につき○円を上限とする。ただし、乙が資金を目的外に使用した場合は、この限りでない。
「重大な過失」に限るか、「過失」とするかは当事者の判断です。上限の書き方と、上限が外れる場合の書き方をあわせて決めます。
確認の問い運営者の過失の別枠を決める前に
事業の結果としての赤字と、義務違反による損害を、条文の上で区別しているか。
区別がなければ、すべての赤字が「過失」の争いになり、通常の事業判断まで責任追及の対象になる
どの行為が義務違反に当たるのかを、使途制限・報告・承認の条文とつなげて書いているか。
義務の内容が別の条文で決まっていないと、「損害」の前提が決まらない
運営者が負担する額に上限を置き、上限が外れる場合も決めているか。
上限のない負担は、運営者に受け入れられにくい。外れる場合を限れば、出資者の保護も保てる
損害の額を算定する資料と、その開示の方法を決めているか。
額の根拠が運営者の手元にしかないと、請求の前提が確かめられない
損失が出資を食った後の分配を止める|配当の制限
赤字の事業で、利益が出た月だけ分配を続けると、累計では出資が減っているのに、現金だけが当事者の手元に出ていく形になります。これを防ぐための規定が、型によっては法律に置かれています。
匿名組合では、出資が損失によって減少したときは、その損失を填補(穴埋め)した後でなければ、匿名組合員は利益の配当を請求することができません(商法538条)。有限責任事業組合では、組合財産は、その分配の日における分配可能額を超えて分配することができません(有限責任事業組合契約法34条1項)。一方、民法の組合の規定(667条から688条まで)には、これらに当たる配当の制限を直接定めた条文は置かれていません。したがって、民法の組合に当たる共同事業では、契約で自分たちの制限を書いておくかどうかが重要になります。
書き方の基本は、分配の順序を条文にすることです。当期に利益が出たとき、まず繰越損失を填補し、次に留保金(事業のために分配せず手元に残しておく資金)を積み、その残りを分配する、という順序にします。利益の定義と分配の手続は利益分配の時期と計算書の作り方で取り上げています。次の帳票は、分配の順序の一例です。
分配の順序の一例
- +当期の利益○円
- -繰越損失の填補○円
- -留保金の積立て利益の○%
- =分配できる額○円
填補が終わるまで分配しないのか、一部の分配を許すのかは当事者の設計です。後者の場合は、分配を許す上限を書きます。
出資の払戻しについても、同じ考え方が必要です。損失が出資を食った後に、出資者が払戻しを求めると、他の当事者の負担で出資が戻る形になります。払戻しの請求を認める時期、損失で減った出資の扱い、払戻しの額の計算方法は、持分と脱退の条文で決めておきます。清算の場面での残余財産の分け方は共同事業の終了と清算の手順で取り上げています。
赤字が続くとき|追加の拠出・縮小・撤退の基準を先に書く
赤字は、一度出たら終わりではなく、続くことがあります。継続的な赤字の局面では、損失の割合そのものよりも、「どの水準で何を決めるか」を事前に書いてあるかが重要になります。
第一に、追加の資金拠出の扱いです。出資者や運営者に、追加の出資を義務づけるのか、任意にするのか。義務にするなら、上限と承認の手続を定めます。任意にするなら、拠出しなかった者の持分や利益の取り分をどうするか(割合を薄めるのか、そのままにするのか)を決めます。払込の期限や遅延の効果は共同事業の出資の決め方で取り上げています。
第二に、損失の水準を基準にした協議の定めです。たとえば、累計の損失が出資の総額の一定割合に達したときは、事業計画の見直しの協議を開く。さらに別の割合に達したときは、事業を縮小するか、解散するかを協議する。数値は事業の性質に応じて決めますが、水準があらかじめ決まっていれば、「まだ様子を見る」と「もう畳む」のあいだの対立が、感情ではなく基準の問題になります。大きな借入れや追加の投資の承認ラインは共同事業の重要事項の承認の決め方で取り上げています。
損失の条項を締結前に確かめる
- 損失の割合を、数字で書いている。
- 「損失」とは何を指すのか、計算の範囲と繰越しの扱いを定義している。
- 利益と損失の割合が異なる場合は、その理由と推定を排除する旨を書いている。
- 内部の負担の上限と、債権者に対する責任を分けて書いている。
- 払い過ぎた者が精算を受けられる求償の定めを置いている。
- 事業の結果としての赤字と、運営者の義務違反による損害を分けている。
- 損失がてん補されるまでの分配や払戻しの扱いを書いている。
- 累計の損失が一定の水準に達したときの協議と、その後の手順を書いている。
起きがちなこと
場面別に見る、損失条項の抜けから起きること
- 初めての赤字が出たとき「損失は折半」とだけ書いてあるため、損失とは何かが決まっていません。運営者への報酬を費用に入れるかどうかで、赤字の額そのものが食い違い、割合の話に入る前に計算で止まります。
- 取引先から請求が来たとき内部では出資額までと考えていた出資者に、取引先から出資額を超える請求が届きます。内部の上限は書いてあっても、債権者に対しては別の話だと書かれていないため、出資者は「聞いていない」と受け止めます。
- 運営者のミスが疑われたとき事業の結果としての赤字と、義務違反による損害が分けられていません。通常の事業判断まで責任追及の対象になり、運営者は萎縮して判断を先送りし、赤字がさらに膨らみます。
- 赤字の中で利益が出た月累計では出資が減っているのに、その月の利益が分配されます。後から累計の損失を填補する必要が出て、すでに受け取った分配の返還をめぐって対立します。
- 赤字が数期続いたとき追加の拠出を求める根拠も、事業を畳む基準もありません。追加の資金を出すか出さないかが、当事者の人間関係の問題に変わり、決断が遅れます。
よくあるご質問
共同事業の損失を折半にするには、契約書にどう書けばよいですか。
「損失は折半」とだけ書くのではなく、損失の割合、損失の範囲、繰越しの扱いを書きます。民法は、損益の割合を定めなかったときは出資の価額に応じるとし(674条1項)、利益または損失だけの割合を定めたときは両方に共通と推定します(同2項)。折半にするなら、「各事業年度の損失は、甲○%、乙○%の割合で負担する」と数字で書き、損失の定義を別に置くと、後で食い違いにくくなります。
出資者は、出資した額以上の責任を負うことがありますか。
型によって異なります。民法の組合に当たる共同事業では、組合の債権者は各組合員に対し、損失分担の割合または等しい割合で権利を行使できるとされており(民法675条2項)、条文は責任の上限を出資額とはしていません。匿名組合では、匿名組合員は第三者に対して権利義務を有せず(商法536条4項)、損失は出資の減少として受け止める構造です。有限責任事業組合は、出資の価額を責任の限度とする契約です(有限責任事業組合契約法3条1項)。
当事者のあいだで「責任は出資額まで」と決めれば、債権者にも通りますか。
その合意だけで債権者に対する責任が限定されるとは、条文からは読み取れません。債権者との契約の中で責任の範囲を取り決めるなどの別の手当てが必要です。契約書では、内部の負担の上限と、第三者に対する責任を分けて書くのが一般的です。
運営者の失敗による赤字は、運営者が負担させられますか。
事業の結果としての赤字と、義務違反による損害は区別されます。業務を決定・執行する組合員には、善良な管理者の注意義務や報告義務の規定が準用されるため(民法671条、644条、645条)、義務違反による損害は損失の割合とは別に責任を問える構造です。契約書では、故意・重大な過失に限るか、上限を置くか、損害額を算定する資料をどう開示するかを書きます。
赤字が出ている間でも、利益が出た月は分配してよいですか。
型と契約によります。匿名組合では、出資が損失で減少したときは、その損失を填補した後でなければ利益の配当を請求できません(商法538条)。有限責任事業組合では、分配は分配可能額を超えることができません(有限責任事業組合契約法34条1項)。民法の組合の条文にはこれに当たる規定が置かれていないため、契約で、繰越損失を填補するまで分配しないなどの順序を書いておくことになります。
あわせて読みたいページ
本ページは一般的な情報提供です。共同事業の内容、出資の形、当事者どうしの関係によって、必要な定めは異なります。条文は e-Gov法令検索(法令API)で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 法務省 / 中小企業庁