このページの要点
- 利益の定義は、基準(売上・粗利・純利益)、控除項目、確定の時期、通算の単位の4つで書く。
- 控除項目は別表で限定し、上限を置き、一覧にない費用は事前合意を条件にする。
- 運営者の報酬は、費用として引くのか、利益の割合に含めるのかを決め、二重の取り分を防ぐ。留保金は上限・目的・終了時の扱いを書く。
- 売上の確定の基準、払戻しの扱い、赤字の繰越しを決め、毎月の計算書の様式を別紙にして根拠を共有する。
結論:「利益」は、基準・控除項目・確定の時期・通算の単位の4つで定義する
共同事業の契約書で「利益は折半とする」と書いても、それだけでは分けるものが決まりません。割合は決まりますが、何を基準に、何を引き、いつ確定し、どの単位で通算した残りを「利益」と呼ぶのかが決まっていないからです。契約書の「利益」の定義が曖昧なまま事業が動き始めると、毎月の計算のたびに、当事者が別々の前提で数字を作ることになります。
利益の定義で決めることは、4つです。1つめは基準で、売上を基準にするのか、粗利を基準にするのか、純利益を基準にするのかです。2つめは控除項目で、売上から何を引くのか、引ける額に上限はあるのかです。3つめは確定の時期で、月ごとか、四半期ごとか、決算期かです。4つめは通算の単位で、事業全体を一つに合算するのか、店舗別や事業別に分けるのかです。
法律の側から見ても、利益の中身は定められていません。民法の組合では、損益の分配の割合は、当事者が定めなかったときは各組合員の出資の価額に応じて定めるとされています(民法674条1項)。有限責任事業組合でも、損益の分配の割合は、履行した出資の価額に応じて定めるのが出発点です(有限責任事業組合契約法33条)。匿名組合は、営業から生ずる利益を分配することを約する契約とされています(商法535条)。いずれも「割合」や「利益を分配すること」は出てきますが、何を引いた残りを利益と呼ぶのかは書かれていません。そこは契約書で埋めるところです。
3つの基準:売上基準・粗利基準・純利益基準
利益を何で測るかは、分配の安定性と公平感に直接影響します。ここでは、売上から原材料や仕入などの直接の原価を引いた額を「粗利」、粗利からさらに運営にかかる費用を引いた額を「純利益」と呼びます。3つの基準を比べると、次のようになります。
利益を測る3つの基準
| 基準 | 分配の対象 | 向いている場面 | 注意する点 |
|---|---|---|---|
| 売上基準 | 売上そのもの(またはその一定割合) | 費用が少なく、売上の確認が容易な事業。支払いを早く確定させたい場合 | 費用を負う側の負担が重い。売上は増えても事業が赤字になることがある |
| 粗利基準 | 売上から仕入や材料などの直接の原価を引いた額 | 原価が売上に連動する事業(販売・制作など) | 何が直接の原価かを決める必要がある。運営の費用は別に扱う |
| 純利益基準 | 売上から原価と運営の費用を引いた残り | 費用の使い道を共有できる事業 | 控除項目が広いと、残りが小さくなる。確定に時間がかかる |
基準の選び方は、費用を誰が支配しているかで変わります。運営者が費用を決める立場にあるとき、純利益基準にすると、費用の使い方次第で出資者に回る額が動きます。売上基準にすれば、費用の影響を受けない代わりに、運営者は費用を自己負担して売上の一部を受け取る形になり、赤字のリスクを運営者が負います。粗利基準は、その中間に当たります。
基準を二段にする書き方もあります。たとえば、売上の一定割合を先に出資者に支払い、残りの利益を割合で分ける、という構造です。この場合、先に支払う部分が「確定した配当」のように読めてしまうと、出資なのか貸付なのかの性質が曖昧になります。売上に連動する報酬や、売上を原資とする分配の一般的な書き方は、別のガイドで扱います。ここでは、共同事業の内部で「利益」をどう定義するかに絞ります。
利益の計算の流れを帳票にして見える形にする
利益の定義は、文章だけで書くと読み違いが起きやすいので、計算の流れを帳票の形で別紙にしておくと、毎月の計算書の様式としても使えます。次は、純利益基準で、運営者の報酬と留保金も扱う場合の計算の例です。
純利益基準の計算の例(書き方の例)
- +売上(確定した売上額)○円
- -売上原価(仕入・材料・外注)○円
- =粗利○円
- -運営の費用(別表に掲げる費目)○円
- -運営者への報酬・委託費(事前合意した額)月額○円以内
- =留保前の利益○円
- -留保金(事業の口座に残す額)利益の○%
- =分配する利益○円
最後の行が分配の対象です。各行に対応する証憑と帳簿の項目を、別紙の様式に揃えておくと、毎月の計算の根拠を示せます。金額は○と伏せた書き方の例です。
帳票にすると、どの行が当事者の判断で動くのかが見えます。運営の費用の行、運営者への報酬の行、留保金の行は、いずれも契約書で上限や条件を置かなければ、運営する側の判断で大きくなります。逆に、売上の行は、確定の基準(入金時か、請求時か、納品時か)を決めておかないと、月をまたぐ取引の扱いで食い違います。
控除項目の書き方:限定列挙・上限・事前合意
利益の定義の中で、最も揉めるのは控除項目です。「売上から経費を引いた額」と書くだけでは、経費の範囲が決まりません。限定列挙で費目を挙げ、上限を置き、一覧にない費用は事前合意を条件にする、という3つの組み合わせが基本です。費用の範囲の詳しい書き方は費用負担の書き方のページで扱っているので、ここでは利益の定義の条文との関係に絞ります。
書き方の例利益の定義に関する定め
- 本契約において「利益」とは、各月の売上から、第○条および別表に定める費用を控除した残額をいう。
- 売上は、本事業に係る代金のうち、当月中に入金されたものとする。ただし、返品、返金その他の理由により払い戻した額は、払戻しをした月の売上から控除する。
- 第○条および別表に定めのない費用は、甲乙が事前に書面または電磁的方法により承認した場合に限り、前項の費用に含める。
- 利益が負の値になったときは、その額を翌月以降に繰り越し、翌月以降の利益から先に控除したうえで、分配を行う。
第2項は売上の確定の基準と払戻しの扱い、第4項は赤字の繰越しの扱いです。繰越しを置くかどうかは、損失の負担の定めと合わせて決めます。
書き方の例(一般的な例) 利益の定義の書き方
利益の定義
理由「経費」の中身を別表で絞り、一覧にない費用は承認を条件にします。控除項目の幅が定まり、計算の根拠も示しやすくなります。
売上の確定
理由請求した月か、入金された月かで、月の利益が変わります。払戻しがあったときの扱いも、決めておかないと、後から調整が必要になります。
赤字の月
理由「分配しない」と書くだけでは、赤字を翌月に持ち越すのか、その月で切り捨てるのかが不明です。繰り越すなら、書いておくと計算が揃います。
運営者の報酬・最低保証・留保金:利益の定義の外側にあるお金
利益の定義には、運営者の報酬、最低保証、留保金という、利益の周辺にある3つのお金の扱いが関わります。いずれも、書き方次第で、分配の対象になる額が動きます。
運営者の報酬は、費用として引くのか、利益の分配とは別に受け取るのか、あるいは利益の割合の中に含めるのかを決めます。費用として引くなら、金額の上限と事前の合意が必要です。民法では、受任者は特約がなければ報酬を請求できません(民法648条1項)。組合の業務を執行する組合員には、この規定が準用されます(民法671条)。運営者が報酬を受けたいなら、その旨を契約で定める必要があり、利益の割合を高く取ることで報酬を兼ねる書き方もできます。ただし、報酬と利益の割合の両方で運営者が受け取ると、実質的に二重の取り分になるため、どちらで運営者の貢献を評価するのかを決めておきます。
最低保証は、事業の成績に関係なく、毎月一定額を保証する約束です。運営者に最低額の報酬を保証する形と、出資者に最低額の配当を保証する形があります。出資者への最低配当を確定した金額で定めると、損益を共に負うという出資の考え方から離れ、貸付に近い形になります。誰が保証の原資を負担するのか、利益が出ない月は誰が埋めるのかが、赤字の負担の定めと直結します。詳しくは赤字・損失の負担のページで扱います。
留保金は、利益の一部を分配せずに事業の口座に残しておく仕組みです。運転資金の安定や、設備の更新、予備費に回す目的で置かれます。留保金を置くときは、上限(利益の○%まで、口座残高が○円に達するまで)、目的、使うときの承認、事業を終えるときの扱い(出資の割合に応じて分ける、など)を書いておきます。上限や使途がないと、運営する側の判断で利益が分配されずに溜まり続け、出資者が分配を受けられない状態になります。
書き方の例(一般的な例) 運営者の報酬・最低保証・留保金の書き方
運営者の報酬
理由割合での取り分と委託費の請求の両方が開いていると、同じ働きに二重に受け取る形になりえます。運営者の貢献をどちらで評価するかを決め、他方を閉じます。
最低保証
理由利益と関係なく確定した金額を毎月払う約束は、損益を共に負う出資の考え方と合わなくなり、貸付に近づきます。保証をするなら、誰の負担で、いつまで、いくらまでかを書きます。
留保金
理由「必要な額」の幅を決めるのは運営する側です。上限、目的、承認を書いておくと、分配されずに溜まり続ける状態を防げます。
設備を買ったときに、その取得費を利益の計算でいつ引くのかも、契約の側で決めておく点です。購入した月に全額を引くのか、一定の期間に分けて引くのか、そもそも出資金で賄った事業の財産として引かないのか。選び方で月ごとの利益の形が大きく変わります。会計や税の扱いは別の論点であり、このサイトでは扱いません。契約書では、当事者間の分配の計算上の扱いを決めます。
利益の確定の時期と、通算の単位
利益の確定の時期は、分配の頻度に直結します。月ごとに確定して分配する形は、当事者に分配が早く届く一方、月ごとの変動が大きくなります。四半期や決算期ごとに確定して分配する形は、変動が均されますが、分配までの期間が長くなります。確定と分配の時期が食い違う書き方(たとえば、分配は毎月、確定は年に一度とするもの)は、どの月の利益をどの時点で分けるのかが読み取れなくなるので避けます。
通算の単位も決める点です。事業が一つなら通算は単純ですが、店舗が複数あるとき、事業が複数あるとき、複数の商品やサービスを扱うときには、全体を合算して利益を出すのか、単位ごとに利益を出して分けるのかを決めます。単位ごとに分けると、黒字の単位の利益は分配され、赤字の単位は分配がゼロになります。合算すると、黒字の単位が赤字の単位を支える形になり、事業全体としての利益が小さくなります。
利益の確定と通算の決め方
| 決めること | 選び方 | それぞれの特徴 |
|---|---|---|
| 確定の時期 | 月ごと/四半期ごと/決算期ごと | 短いほど分配が早く届く。長いほど変動が均される。確定と分配の時期を揃える |
| 売上の確定の基準 | 入金時/請求時/納品時 | 月をまたぐ取引の帰属が変わる。払戻しの扱いも併せて決める |
| 通算の単位 | 事業全体を合算/店舗別・事業別 | 合算は黒字が赤字を支える。別々だと黒字の単位だけが分配される |
| 赤字の扱い | 繰り越して先に埋める/その月で切る | 繰り越すと分配の再開が遅れる。切ると、出資者に不利になる場合がある |
書き方の例(一般的な例) 通算の単位の書き方
店舗や事業ごとに分けるとき
理由合算のままだと、黒字の店舗が赤字の店舗を支える形になります。店舗ごとに分けるなら、共通の費用の割当ての方法まで書いておかないと、割当てが争いの種になります。
全体を合算するとき
理由店舗ごとの利益で分けると、赤字の店舗の損失を誰が持つのかが空白になります。合算するなら、通算の結果が赤字になったときの繰越しまで書きます。
赤字の繰越しは、匿名組合で条文上の出発点があります。出資が損失によって減少したときは、その損失をてん補した後でなければ、匿名組合員は利益の配当を請求できません(商法538条)。民法の組合には同じ規定はありませんが、契約書で同様の定めを置くことができます。繰り越すかどうかは、損失の割合の定めと合わせて決めます。
契約上の「利益」は、会計書類に出てくる利益と同じ金額になるとは限りません。契約で控除項目や売上の確定の基準を独自に定めると、会計書類の数字とずれます。そのずれを前提にして、契約上の利益の計算書を別に作る運用にしておきます。毎月の計算書の項目、異議の期限、後で誤りが分かったときの調整は、分配の手続のページで扱います。
定義がないときに争点になること、契約を結ぶ前の確認
利益の定義が書かれていない契約では、毎月の分配の場面で、次のような点が争いになります。運営者の報酬を引くのか。初期費用をいつ引くのか。まだ入金されていない売上を含めるのか。返品や返金をどの月から引くのか。留保をいくら残すのか。前の月の赤字を先に埋めるのか。いずれも、条文に答えがあるわけではなく、契約書に書いてあるかどうかで決まります。民法674条が決めているのは、割合を定めなかったときは出資の価額に応じる、ということだけです。
確認の問い利益の定義を書く前に、当事者が答える問い
利益の基準は、売上、粗利、純利益のどれか。
基準で、運営者と出資者のどちらが費用のリスクを負うかが変わります。基準を選ぶ理由を、当事者が言葉で説明できる状態にします。
控除できる費用は、一覧に載った費目だけか。一覧にない費用はどう扱うか。
一覧に限定すると範囲が明確になり、承認を条件に追加できる仕組みがあれば柔軟性も保てます。
運営者の報酬は、費用として引くのか、利益の割合の中に含めるのか。
どちらかを選ばないと、報酬を二重に受け取る形になりうるか、受け取れない形になりうるかのどちらかが起きます。
利益はいつ確定し、どの単位で通算するのか。赤字の月はどうするのか。
確定の時期、通算の単位、赤字の繰越しは、相互に影響します。三つを一度に決めます。
留保金を置くなら、上限と使い道、事業を終えるときの扱いは何か。
上限と使い道がないと、分配されない利益が溜まり続けます。終了時の扱いを決めておくと、清算の際の争いを減らせます。
利益の定義の点検
- 利益の基準(売上・粗利・純利益)と、その理由を言葉で書けるかを確かめる。
- 売上を確定する基準と、返品・返金があったときの扱いを書いたかを確かめる。
- 控除項目を別表で限定し、一覧にない費用は事前合意を条件にしたかを確かめる。
- 運営者の報酬を、費用として引くのか、利益の割合に含めるのかを書いたかを確かめる。
- 最低保証を置く場合は、保証の原資の負担者と、利益が出ない月の扱いを書いたかを確かめる。
- 留保金の上限、使い道、承認、終了時の扱いを書いたかを確かめる。
- 利益の確定の時期、通算の単位、赤字の繰越しの扱いを書いたかを確かめる。
- 毎月の計算書の様式を別紙にして、各項目に対応する帳簿を決めたかを確かめる。
起きがちなこと:最初の分配、赤字の月、見直しのとき
場面別の起きがちなこと
- 最初の分配のとき利益は折半と決めていたが、運営者が運営の報酬を費用として引いて計算してきた。出資者は、報酬は利益の割合の中に含まれていると考えていたため、数字が噛み合わない。
- 赤字の月が続いたとき赤字の月の分を翌月の利益で先に埋めるのか、その月で切るのかが決まっておらず、黒字の月に分配を求める側と、先に埋めたい側の意見が分かれる。
- 店舗や事業が複数になったとき黒字の事業と赤字の事業が混ざり、合算で利益を出すのか、別々に出すのかを決めていないため、分配額の計算の前提が二つ並ぶ。
- 留保金が溜まったとき留保金の上限を決めておらず、運営者が事業の将来のためとして毎月多めに残す。出資者は、分配が小さくなったことの理由を数字で確認できない。
- 途中で数字を見直したいとき利益の定義が曖昧なまま数か月が経ち、過去の分配を遡って直すかどうかが論点になる。毎月の計算書が残っていないと、直す基準もない。
これらの場面の多くは、利益の定義を、基準・控除項目・確定の時期・通算の単位の4つで書き込むことと、帳簿と毎月の計算書で数字を共有することで避けられます。帳簿を見る権利と、見るための口座の仕組みは帳簿・口座・検査権のページで扱います。
よくあるご質問
利益は折半と書くだけで、契約書として足りますか。
足りません。折半は割合の定めであり、何を基準に、何を引き、いつ確定した残りを利益と呼ぶのかは決まりません。基準、控除項目、確定の時期、通算の単位の4つを書いておく必要があります。割合を定めなかったときについて、組合の場合は民法674条1項が出資の価額に応じるとしていますが、利益の中身は定めていません。
売上基準と純利益基準は、どちらがよいですか。
費用を誰が支配しているかで決めます。運営者が費用を決める立場にあるときは、純利益基準だと費用の使い方で出資者の取り分が動きます。売上基準にすれば費用の影響を受けませんが、運営者が費用を負う形になります。粗利基準は、直接の原価だけを引く中間の形です。
運営者の報酬は、利益から引いてよいですか。
契約書に書けば引けます。ただし、報酬と、利益の割合の両方で運営者が受け取ると、二重の取り分になりえます。どちらで運営者の貢献を評価するのかを決め、費用として引くなら上限と事前の合意を置きます。組合の業務を執行する組合員は、特約がなければ報酬を請求できないという出発点があります(民法648条1項、671条)。
留保金は、いくらまで残してよいですか。
契約書で決めた上限までです。上限、目的、使うときの承認、事業を終えるときの扱いを書いておきます。上限や使い道が決まっていないと、利益が分配されずに溜まり続ける状態になります。
赤字の月がある場合、翌月以降の利益はどう分けますか。
契約書の書き方で決まります。赤字を繰り越して翌月以降の利益から先に埋めてから分配する方法と、その月で切る方法があります。匿名組合では、出資が損失によって減少したときは、その損失をてん補した後でなければ利益の配当を請求できません(商法538条)。組合でも、契約書で同様の定めを置けます。
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