共同事業の持分の譲渡・脱退の定め方:同意・手続・値段の三つ

共同事業の契約書で最も後回しにされやすいのが、人が出入りするときの定めです。持分の譲渡、新しい人の加入、脱退、除名、払戻しの計算、競業の制限を、同意・手続・値段の三つの軸で整理します。

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脱退を希望して通知しても、相手の同意がなければ終了しない書き方では、抜けたい側は身動きが取れません。

このページの要点

  • 持分や地位の譲渡は、他の全員の書面による承諾と、先に買い取る権利(先買権)の手順を書いておく。
  • 新規加入は、全員の同意か契約の定めによる。加入前の債務について加入者は責任を負わないが、出資の額は加入時の貸借を見て決める。
  • 脱退した人への払戻しは、出資額ではなく、脱退の時の事業の財産の状況に従う。基準日、評価の方法、割合、支払の回数を契約書で決める。
  • 競業避止は、期間・地域・範囲・代償をそろえ、守りたい利益に釣り合う範囲に絞って書く。

結論:出入りの定めは「同意」「手続」「値段」の三つを先に書いておく

共同事業で揉めやすいのは、始めるときよりも、途中で人が入れ替わるときです。出資者の一人が事情で抜けたい。運営を手伝ってくれる人を新しく迎えたい。自分の持分を身内に譲りたい。反対に、関係が悪くなった相手に退いてもらいたい。どの場面でも、契約書に出入りの定めがなければ、民法の規定と、当事者それぞれの記憶だけで話を進めることになります。

このページでいう「持分」は、共同事業の中での自分の取り分と立場をまとめた呼び方です。出資の割合、利益や損失を分ける割合、事業の財産に対する取り分、発言の権利が含まれます。民法の組合(二人以上が出資をして共同の事業を営む約束、民法667条1項)に当たる共同事業を主な前提にして説明します。組合に当たるかどうかは、契約書の題名ではなく、出資と共同の事業という中身で決まります。型の違いは型の選び方のページで比べています。

出入りの場面で先に決めておくことを、三つに絞ります。

  • 同意:誰が、どの場面で、誰の同意を得れば、持分を譲り、人を加え、人が抜け、人を外せるのか。全員の同意か、過半数か、書面か口頭か。
  • 手続:いつまでに、何を、誰に通知するのか。予告の期間、引継ぎの期間、事業に不利な時期を避ける工夫、通知を受けた側の選択肢(先に買い取る権利など)。
  • 値段:抜ける人の持分を、いつの時点の、どの資産と負債を基準に、どの割合で、いつ、どの方法で払い戻すのか。

この三つが決まっていないと、出入りの話し合いは、そのまま値段の争いになります。値段の基準がなければ、抜けたい側は高く、残る側は低く主張するほかなく、同意の要件がなければ、誰に決める権限があるのかも定まりません。反対に、三つが書かれていれば、関係が悪くなった後でも、条文の機械的な適用で手続を進められます。契約書は、仲のよいうちに「別れ方」を書いておく書類です。

出入りの手続の流れ(一般的な例)

  1. 申出抜ける、譲る、加えるの意思を、書面で他の当事者に通知する
  2. 同意・選択必要な同意を得る、または他の当事者が先に買い取るかを選ぶ
  3. 計算基準日の資産と負債を評価し、持分の額を算定する
  4. 払戻し・対価決めた方法と期限で、払戻しまたは譲渡の対価を支払う
  5. 引継ぎ・制限事業の引継ぎ、秘密の保持、競業の制限を実行する

各段階で、期限・書面・責任者を決めておくと、途中で止まりません。

持分の譲渡:自由に譲れるのか、先に買い取る権利を置くのか

まず、持分を第三者に譲る場面です。民法は、組合員が組合財産についてその持分を処分したときは、その処分をもって組合および組合と取引をした第三者に対抗することができないと定めています(民法676条1項)。事業の財産は総組合員の共有に属しますが(同法668条)、その持分を個別に処分しても、組合や取引先に対しては主張できません。したがって、事業の設備や預金に対する自分の取り分だけを、第三者に切り売りして、事業の側に通用させることはできません。

では、組合員としての地位そのものを譲る場合はどうか。民法には、組合員の地位の譲渡を直接に定めた条文は見当たりません。契約上の地位の譲渡一般については、契約の相手方が譲渡を承諾したときに、地位が譲受人に移ると定められています(民法539条の2)。組合では相手方が他の全ての組合員になるため、他の組合員全員の承諾を得る形にするのが素直です。後の争いを避けるには、契約書で「他の全ての当事者の書面による事前の承諾」を要件として明記し、承諾を得ずに行った譲渡や担保の設定は効力がないと書いておきます。

承諾を要件にするだけでは、譲る側は、反対された途中で身動きが取れなくなります。そこで、よく置かれるのが先買権です。持分を譲りたい人が、譲渡の相手と条件を他の当事者に先に示し、他の当事者が同じ条件で自分たちが譲り受けると答えれば、そちらを優先する仕組みです。第三者に高く売れる条件が示されているときは、残る側が同じ条件で買えば、見知らぬ相手の参加を避けられます。残る側にとっては、事業の相手を選ぶ手段になります。

書き方の例持分の譲渡と先買権

  1. 各当事者は、他の全ての当事者の書面による事前の承諾を得なければ、本事業に関する自己の地位および持分の全部または一部を、第三者に譲渡し、担保に供し、その他の処分をしてはならない。
  2. 譲渡を希望する当事者は、譲渡の相手方、対価その他の条件を記載した書面により、他の当事者に通知しなければならない。他の当事者は、通知を受けた日から○日以内に、同じ条件で自ら譲り受ける旨を通知することができる。
  3. 前項の期間内に譲り受ける旨の通知がなかったときに限り、譲渡を希望する当事者は、通知した条件で第三者に譲渡することができる。ただし、譲受人が本契約の全ての条項に従う旨の書面を差し入れたときに限る。
  4. 前各項に反してされた譲渡、担保の設定その他の処分は、他の当事者に対して効力を有しない。

承諾の方法、通知から回答までの日数、先買権を行使できる当事者の範囲(全員か、運営に携わる者に限るか)は、事業の実情に合わせて決めます。数値は例として伏せています。

譲渡の対価の決め方も、先に書いておく点です。対価を当事者の協議に任せると、先買権を行使するかどうかを判断できません。第三者から提示された条件に合わせる方法のほか、あらかじめ定めた算式(脱退のときの払戻しの計算と同じ算式にそろえる方法)を使うと、持分の値段が出入りの方法によってばらつくのを防げます。名目上きわめて低い対価で地位を移す場合は、その対価が、事業の債務や未払の費用、これまでの出資との関係でどう位置づけられるのかも、書面に残しておきます。譲渡の前後で、事業の預金や売掛金が誰に帰属するのかを明記しておくのも、後の争いを防ぎます。

新しい人を迎える:加入の要件と、加入前の債務の扱い

新しい出資者や運営者を迎える場面です。民法は、組合員は、その全員の同意によって、または組合契約の定めるところにより、新たに組合員を加入させることができると定めています(民法677条の2第1項)。全員の同意が原則ですが、契約書に「過半数の同意で加入させられる」などの定めを置けば、それに従います。加入の手続を軽くしておきたい事業では、この定めを活用します。

加入する人の側から見て大切なのは、加入前に生じた債務の扱いです。民法は、組合の成立後に加入した組合員は、その加入前に生じた組合の債務については、これを弁済する責任を負わないと定めています(民法677条の2第2項)。加入前に事業が負った借入や仕入の未払、賃貸借の債務は、加入した人が自分の財産で責任を負うことにはなりません。ただし、これは債権者に対する責任の話で、事業の内部で、加入後の利益の分配や出資の割合をどう決めるかは別です。加入前の債務が事業の財産から返される以上、加入者が出す出資は、その返済に回る可能性があります。加入者としては、加入時点の貸借の状況を示してもらい、出資の額を決めるのが安全です。

契約書では、次の点を決めておきます。

  • 加入の要件(全員の同意か、過半数か、運営者だけの決定か)と、加入の書面の様式。
  • 加入する人の出資の額と時期、損益を分ける割合、発言の権利。既存の出資者の割合が薄まるときの調整。
  • 加入時点の資産と負債を示す資料の提出と、その内容を既存の当事者が保証するのか。
  • 加入者が既存の契約(本契約と、事業が結んでいる契約)を引き継ぐ範囲と、秘密の保持の約束。

出入りの場面ごとの、民法の定めと契約書で決めておくこと

場面民法の定め契約書で決めておくこと
持分・地位の譲渡財産に対する持分の処分は対抗できない(676条1項)。地位の譲渡は相手方の承諾(539条の2)承諾の方法、先買権、対価の算式、無断譲渡の効力
新規加入全員の同意または契約の定め。加入前の債務の責任はない(677条の2)加入の要件、出資の額、割合の調整、資料の提出
任意の脱退期間の定めがなければいつでも。不利な時期は不可(678条1項)予告の期間、引継ぎ、不利な時期の判断
やむを得ない脱退期間の定めがあってもできる(678条2項)やむを得ない事由の例、手続
当然の脱退死亡、破産手続開始の決定、後見開始の審判、除名(679条)契約で追加する事由、承継の可否
除名正当な事由があるとき、他の組合員の一致で。通知が必要(680条)除名事由の例、通知の方法、弁明の機会

抜ける・外す:任意脱退、やむを得ない脱退、除名の違い

人が事業から出ていく形は、三つに分けて考えると整理しやすくなります。自分の意思で抜ける脱退、一定の事実が起きて当然に外れる脱退、他の当事者の判断で外す除名です。

自分の意思による脱退について、民法は、組合契約で組合の存続期間を定めなかったとき、またはある組合員の終身の間組合が存続すべきことを定めたときは、各組合員はいつでも脱退することができるとしています。ただし、やむを得ない事由がある場合を除き、組合に不利な時期に脱退することはできません(民法678条1項)。存続期間を定めた場合でも、やむを得ない事由があるときは、各組合員は脱退することができます(同条2項)。まとめると、期間の定めのない共同事業では、原則としていつでも抜けられますが、事業が大きな取引の途中にあるときなどの不利な時期は避ける必要があります。期間を定めた共同事業では、期間の途中で抜けるにはやむを得ない事由が要ります。

この規定は、契約書の書き方に直接響きます。期間を定めた共同事業で、「期間の途中では理由を問わず抜けられない」と書いても、やむを得ない事由があるときの脱退まで排除できるかには疑義が残ります。脱退の自由を一切奪う定めの効力については、条文と裁判例の確認が必要です。契約書では、脱退を禁じるのではなく、予告の期間、不利な時期の判断、引継ぎの義務、払戻しの時期を整える形が、安定します。やむを得ない事由に当たる場面を具体的に列挙しておく方法もあります。

書き方の例(一般的な例) 任意脱退の定め方

抜けるときの手続

よくある書き方脱退を希望する場合は、一定の日数前までに書面で通知し、相手方の同意をもって契約は終了する。
整えた書き方脱退を希望する当事者は、○日前までに書面で通知することにより脱退できる。通知から脱退までの間、引継ぎに協力する。

理由通知した後も相手の同意がなければ終わらない書き方では、同意を拒まれた側は抜けられず、民法678条の脱退とも食い違います。同意を条件にせず、予告の期間と引継ぎの義務で調整します。

不利な時期の脱退

よくある書き方定めなし(民法の「組合に不利な時期」の判断に任せる)。
整えた書き方事業が一定の取引の途中にあるときは、その取引が完了する日まで脱退の効力を生じさせない。ただし、やむを得ない事由があるときはこの限りでない。

理由民法の「不利な時期」は幅のある概念です。具体的な場面を例示しておくと、脱退の可否をめぐる争いが減ります。

次に、当然に外れる脱退です。民法は、前条(任意の脱退)の場合のほか、死亡、破産手続開始の決定を受けたこと、後見開始の審判を受けたこと、除名によって脱退するとしています(民法679条)。個人が出資者や運営者になる共同事業では、死亡による脱退が現実の問題になります。脱退者の相続人は、持分そのものを引き継ぐのではなく、払戻しを受ける立場になります。事業の性質上、相続人が出資者として残ることを認めたい場合は、契約書にその旨と、承継の要件(他の当事者の同意など)を定めておきます。

最後に、除名です。民法は、組合員の除名は、正当な事由がある場合に限り、他の組合員の一致によってすることができ、ただし、除名した組合員にその旨を通知しなければ、これをもってその組合員に対抗することができないと定めています(民法680条)。ここから分かるのは、除名には、正当な事由と、他の組合員全員の一致と、本人への通知の三つが要るということです。契約書には、除名の事由の例(出資の払込の著しい遅れ、使途に反する資金の使用、秘密保持の重大な違反、事業の信用を損なう行為など)と、通知の方法、弁明の機会を書いておくと、除名の正当性が後から争われたときの材料になります。ここでも、「著しい」「重大な」の程度は人によって分かれるので、金額や回数など、客観的に確かめられる目安を併記します。

書き方の例任意脱退と除名

  1. 当事者は、○日前までに、他の当事者全員に対して書面で通知することにより、本事業から脱退することができる。ただし、第○条に定める事業の引継ぎを完了するまでは、脱退の効力は生じない。
  2. 次の各号の一に該当する当事者は、他の当事者全員の一致により除名することができる。(1)出資の払込を、催告を受けた後、なお○日を超えて怠ったとき。(2)第○条の使途に反して事業の資金を使用したとき。(3)第○条の秘密保持の義務に重大な違反をしたとき。
  3. 前項により除名するときは、他の当事者は、除名の事由を記載した書面を本人に通知し、○日以内に弁明の機会を与えなければならない。除名は、本人に通知が到達した時に効力を生じる。

除名の事由は、数字や期限で客観的に確かめられる形に寄せるほど、争いが減ります。数値は例として伏せています。

抜けた人の持分の値段:払戻しの計算の基準を先に決める

脱退と除名の場面で、金額が最も問題になるのが払戻しです。民法は、脱退した組合員と他の組合員との間の計算は、脱退の時における組合財産の状況に従ってしなければならないとし(民法681条1項)、脱退した組合員の持分は、その出資の種類を問わず、金銭で払い戻すことができる(同条2項)、脱退の時にまだ完了していない事項については、その完了後に計算をすることができる(同条3項)としています。

この三つの項を読むと、次のことが分かります。第一に、基準日は「脱退の時」で、そのときの事業の財産の状況で計算します。出資したときの金額を返すのではありません。事業が成功して財産が増えていれば払戻しは出資額を上回り、損失が出ていれば下回ります。第二に、出資が労務や現物だったとしても、払戻しは金銭でできます。第三に、取引が途中のものは、完了を待ってから精算できます。

民法の規定だけでは決まらない点が、いくつもあります。事業の資産をどの価額で評価するのか(帳簿の価額か、時価か、事業を続ける前提の価値か)。持分の割合は、出資の割合か、損益を分ける割合か。払戻しをいつ、何回に分けて払うのか。脱退者が事業に負っている債務や、事業が脱退者に負っている立替金は、どう相殺するのか。この条文が定めているのは、基準日と、事業の財産の状況に従うことだけで、評価の方法と割合までは定めていません。契約書で、算式と手順を書いておく必要があります。

払戻し額の計算の流れ(一般的な例)

  • 脱退の時の事業の資産の評価額○円
  • 事業の債務、未払の費用○円
  • 事業の純資産○円
  • 脱退する人の持分額(純資産 × 持分の割合)○円
  • 事業が脱退する人に負う立替金等の返済額○円
  • 脱退する人が事業に負う債務の額○円
  • 払戻し額(支払の時期と方法は別に定める)○円

評価の基準日、評価の方法、持分の割合、支払の回数と期限は、契約書で別に定めておきます。

評価の方法が決まらないときに備えて、評価を行う人の定め方も書いておきます。当事者が互いに合意した第三者に評価を依頼し、その結果に従う、評価の費用は誰が負担するか、といった手順です。一方の当事者だけが評価の資料を持っているときは、評価に必要な帳簿や証憑を、脱退する人にも見せる義務を明記しておかないと、評価そのものを疑われます。この点は帳簿・口座・検査権のページと連動します。

支払の方法についても、現実的な定めが要ります。払戻し額が大きいと、事業が一度に払えず、事業の継続が危うくなることがあります。そこで、数回に分けて払う、事業の利益の中から払う、払戻しの総額に上限を置く、といった工夫が行われます。分割払いにするときは、期限の利益を失う場合(払いが遅れたときに残額を一度に請求できるか)と、分割中の遅延損害金の率も合わせて決めます。利息を付けるか付けないかも、書いておくべき点です。

確認の問い払戻しの計算を決める前に確かめること

  1. 払戻しの基準日は、脱退の通知の日か、脱退の効力が生じた日か、その月末か。

    民法681条1項は「脱退の時」としか書いていません。基準日が違うと、事業の状況が変わっている間に、金額が動きます。

  2. 資産は帳簿の価額で評価するのか、時価で評価するのか、事業を続ける価値で評価するのか。

    同じ事業でも、評価の方法で払戻し額が大きく変わります。のれんやノウハウを評価に入れるかも、ここで決まります。

  3. 持分の割合は、出資の割合か、損益を分ける割合か。

    二つが異なる事業では、脱退者が受け取る割合が変わります。損益の割合は民法674条、清算時の残余財産の割合は同法688条3項で別々に定められており、脱退の割合は条文がないため契約で決めるほかありません。

  4. 評価で意見が分かれたとき、誰が、どの手順で決めるのか。

    手順がなければ、評価の争いは、払戻しの遅れや事業の停滞につながります。

  5. 払戻しは一括か分割か。分割なら期限と遅延損害金はどうするのか。

    払戻しの原資が事業の資金だと、一括の支払が事業を傷めます。分割の条件があれば、残る側も事業を続けられます。

競業避止:期間・地域・範囲・対価をそろえて書く

抜けた人が、同じ地域で同じ事業を始めて、顧客を奪う。共同事業の出入りでもっとも恐れられるのが、この競業です。契約書には、脱退後や契約終了後の一定期間、同種の事業を行わない約束(競業避止)が書かれるのが一般的です。ただ、競業避止は、働く場や営業の自由を制限するので、強すぎる定めは、公の秩序または善良の風俗に反する法律行為として無効とされるおそれがあります(民法90条)。

どこまでなら有効かは、条文からは決まらず、個別の事情で総合的に判断される部分が大きい論点です。契約書の書き方として、次の要素をそろえておくと、制限の必要性と範囲が読み取りやすくなります。

  • 期間:契約終了後の一定期間。長すぎる期間(事業の実態に比べて極端に長い、あるいは期限がない)は、疑義を受けやすくなります。
  • 地域:事業の営業が実際に行われている範囲。全国や無制限の地域指定は、保護したい利益を超えやすい書き方です。
  • 範囲:禁じる事業の内容。「同種または類似」とだけ書くと範囲が広がりすぎるので、具体的な商品やサービス、顧客層で絞ります。
  • 対価:競業を制限される側に、何らかの代償(払戻しの上乗せ、一定期間の報酬など)があるか。代償が全くないと、制限の相当性が疑われやすくなります。
  • 保護したい利益:顧客、ノウハウ、取引先との関係など、制限で守りたいものが何か。ここが書かれていると、制限の必要性が読み取れます。

書き方の例(一般的な例) 競業避止の定め方

期間と地域

よくある書き方脱退後は、期間の定めなく、国内で、本事業に類似する一切の事業を行ってはならない。
整えた書き方脱退の日から○か月間、本事業の主たる営業が行われている地域(○○の範囲)で、本事業と同種の商品またはサービスを提供する事業を行ってはならない。

理由期間・地域・範囲が広すぎる制限は、民法90条の問題を生じやすく、制限した内容を超えて無効とされるおそれもあります。実際の営業の範囲に合わせて絞ります。

違反したとき

よくある書き方違反した場合は、違反による損害とは関係なく、一定の高額の違約金を支払う。
整えた書き方違反した場合は、相手方に生じた損害を賠償する。損害額の算定が難しいときに備えて、違約金を定める場合は、事業の規模と想定される損害に釣り合う額とする。

理由違約金は賠償額の予定と推定され(民法420条3項)、履行の請求や解除を妨げません(同条2項)。ただし、過大な額は公序良俗の問題が出るため、釣り合いを意識して書きます。

競業避止の定めは、顧客情報や事業資産の持ち出し制限とセットで書くのが基本です。顧客リストや事業用のアカウント、ドメインなどが誰のものかは事業資産のページで整理しています。脱退者が持ち出せる物と、事業に残す物の線引きが先にあれば、競業の制限は、その補強の位置づけで足ります。

匿名組合やその他の型で出入りを考えるとき

ここまでは民法の組合の規定を前提にしてきましたが、出資者が運営者の事業のために出資する形(商法の匿名組合)では、出入りの考え方が違います。匿名組合は、当事者の一方が相手方の営業のために出資をし、その営業から生ずる利益を分配することを約する契約です(商法535条)。出資は営業者(事業を行う側)の財産に属します(同法536条1項)。出資者は共同事業の財産の共有者ではなく、営業者に対する権利を持つ立場に近くなります。

そのため、出資者が抜けるときの定めも異なります。匿名組合契約で存続期間を定めなかったとき、またはある当事者の終身の間匿名組合が存続すべきことを定めたときは、各当事者は、営業年度の終了時において契約の解除をすることができ、ただし、六箇月前にその予告をしなければなりません(商法540条1項)。存続期間を定めたか否かにかかわらず、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、いつでも解除できます(同条2項)。契約が終了したときは、営業者は出資者に出資の価額を返還しなければならず、出資が損失によって減少したときは、その残額を返還すれば足ります(同法542条)。

この違いは、契約書の書き方に響きます。組合では「脱退時の財産の状況に従った計算」が基準なのに対し、匿名組合では「出資の価額、ただし損失で減った分は差し引く」が基準になります。契約書の題名が共同事業でも、実際に出資者が営業者の財産に出資する形なら、後者の考え方に近づきます。型を決めずに「払戻し」「返還」の言葉を混ぜて書くと、どちらの規定に従うのかが読み取れなくなります。まず型を決め、その型に合う言葉で出入りの定めを書きます。

起きがちなこと:出入りの場面で、契約書がなくて困る典型

出入りの場面で起きがちなこと

  • 抜けたいと伝えたとき一定日数前に通知すれば足りると思っていたが、契約書には「相手方の同意をもって終了」とあり、相手が同意しないために抜けられない。同意を条件にした書き方は、脱退を実質的に相手の判断に委ねてしまいます。
  • 持分を譲ろうとしたとき承諾の方法と先買権が書かれていないため、譲渡の相手を見つけてから他の当事者に反対され、話が白紙に戻る。先に手順があれば、譲渡の相手を探す前に可否が分かります。
  • 新しい人を迎えたとき加入の書面がなく、出資の額と損益を分ける割合があいまいなまま事業が始まる。数か月後に、加入前の取引の損益が誰に帰属するのかで意見が分かれる。
  • 払戻しの話になったとき出資した金額を返してもらえるものと考えていたが、事業の財産が減っていて、計算では出資額を下回る。基準日と評価の方法が書かれていないために、計算そのものを疑い合う。
  • 抜けた人が同じ事業を始めたとき競業の定めはあるが、期間と地域が広すぎて、その有効性が争いになる。制限を絞り、代償を置いておけば、守りたい範囲は守りやすくなります。

出入りの定めの点検

  • 持分や地位の譲渡に、承諾の方法と、先買権の有無を書いたか。
  • 新規加入の要件と、加入する人の出資・割合・資料の提出を書いたか。
  • 任意脱退の予告期間と、不利な時期の扱いを書いたか。同意を脱退の条件にしていないか。
  • 除名の事由が、客観的に確かめられる形で書かれ、通知と弁明の機会が決まっているか。
  • 払戻しの基準日、評価の方法、持分の割合、支払の回数と期限を決めたか。
  • 競業避止の期間、地域、範囲、代償が、守りたい利益に釣り合っているか。
  • 匿名組合など別の型の出資者が混ざっていないか。混ざるなら、その人の出入りの規定を別に置いたか。

出入りの定めが整ったら、次に事業そのものを畳む場面の定めを確認します。持分を払い戻して終わるのか、事業ごと清算するのかで、必要な手順が変わります。清算の順序は終了と清算のページ、赤字のときの負担は赤字・損失の負担のページで扱っています。

よくあるご質問

持分を第三者に譲るには、他の出資者の同意が必要ですか。

組合に当たる共同事業では、組合員の地位の譲渡は、契約上の地位の譲渡として、相手方である他の組合員の承諾を要する形になると考えるのが素直です(民法539条の2)。また、組合財産に対する持分を個別に処分しても、組合や取引の相手方に対抗できません(民法676条1項)。契約書で、他の全員の書面による承諾を要件にし、無断の譲渡は効力がないと書いておくのが基本です。

途中から加入した人は、加入前の借入の返済も負担しますか。

債権者に対する責任としては、組合の成立後に加入した組合員は、加入前に生じた組合の債務を弁済する責任を負いません(民法677条の2第2項)。ただ、事業の内部では、加入前の債務が事業の財産から返されるため、加入者の出資が実質的にその返済に回ることがあります。加入時点の資産と負債を示してもらい、出資の額と割合を決めるのが安全です。

共同事業から途中で抜けるのに、他の人の同意は必要ですか。

組合契約で存続期間を定めなかったときは、各組合員はいつでも脱退できます(民法678条1項)。ただし、やむを得ない事由がある場合を除き、組合に不利な時期には脱退できません。存続期間を定めた場合でも、やむを得ない事由があれば脱退できます(同条2項)。同意を脱退の条件にする書き方は、この規定と食い違うため、予告の期間と引継ぎの義務で調整するほうが安定します。

脱退したときに戻ってくる金額は、出資した額ですか。

出資した額ではなく、脱退の時における事業の財産の状況に従って計算されます(民法681条1項)。事業が成長していれば出資額を上回り、損失が出ていれば下回ります。評価の方法、持分の割合、支払の方法は条文に書かれていないため、契約書で算式と手順を定めておく必要があります。

脱退した後に同じ事業を始めないという約束は、必ず有効になりますか。

必ず有効になるとは限りません。期間、地域、禁じる事業の範囲、代償の有無が、守りたい利益に釣り合っていないと、公序良俗に反するとして無効とされるおそれがあります(民法90条)。有効性の判断は個別の事情で変わるため、条文と裁判例の確認が必要です。契約書では、期間と地域と範囲を絞り、代償や払戻しの上乗せを置くのが基本です。

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