共同事業の契約書は、「何をやるか」よりも先に、「お金がどう動くか」で揉めます。誰がいつ幾ら出すのか。どの費用を引いた残りを利益と呼ぶのか。赤字は誰が負うのか。帳簿は誰が付け、誰が見られるのか。重要な支出は誰が決めるのか。抜けるときに何が戻り、畳むときに何をどの順で片付けるのか。このガイドは、共同事業・共同経営・業務提携・出資を伴う協力関係の契約書について、出資、費用負担、利益の定義と分配、帳簿と検査、事業で生まれた資産、持分と脱退、終了時の清算に絞り、民法などの条文の根拠と書き方の例を整理した解説集です。契約の呼び名ではなく、中身のお金の流れから読み解きます。資金を出す側にも、事業を運営する側にも、これから書面を整える方にも、すでに事業が始まっている方にも使えるよう、論点ごとに詳しく書いています。

共同事業を始めようとしている方

オフィスで握手を交わす二人のビジネスパーソン

先に決めるのは、やることよりお金の流れ

知人や取引先と店舗、サービス、商品を一緒にやることになったとき、書面にする順序は、事業の内容よりお金の流れです。出す、使う、稼ぐ、分ける、畳むの5段階で、何を決めておくかを整理します。

契約書の題名が「業務提携」でも「共同経営」でも、中身が出資と利益の分配なら、問われるのはお金の定めです。口約束で始めた場合の扱いと、最初に決めることと後で決めることの線も押さえます。

出資する方・出資を受ける方

高さを変えて積み上げた硬貨

金銭・労務・現物の数え方と、払込の期限

片方は資金、片方は労務を出す形では、出資額をどう数えるかが利益の割合や発言権に響きます。払込の期限と口座、遅れたときの扱い、追加出資の義務の有無と上限も、最初の契約で決めておく点です。

組合、匿名組合、有限責任事業組合、法人、業務委託のどれで書くかによって、責任の範囲、財産の帰属、損失の持ち方が変わります。お金の面から型を比べます。

費用と利益の分け方を決めたい方

机の上に置かれた電卓

何を引いた残りを「利益」と呼ぶのか

利益を折半と書いても、何を引いた残りかが決まっていなければ、分けるものが定まりません。控除できる費用を限定するか、運営者への報酬を費用に入れるか、留保金を残すかで、同じ売上から分けられる額は変わります。

利益の確定の時期、毎月の計算書、異議を出せる期間、後から誤りが分かったときの調整まで、分配の手続を一続きで見ます。

帳簿が見えず、赤字が不安な方

書類とノートパソコンを前に確認し合う二人

帳簿・口座・検査権と、損失の負担

相手がお金を管理していて、収支が見えない。出資金と売上金の管理者が別で、残高がずれる。こうした問題は、共同事業用の口座の名義と権限、月次の突合、業務を執行しない側の検査権を書くことで防ぎやすくなります。

赤字になったときに、損失を誰がどの割合で負うのか、出資額を超えた分はどうなるのかも、利益の分け方と対にして決めます。

途中で抜けたい・人を入れたい方

何枚もの書類に署名する手元

持分の譲渡・加入・脱退と、払戻しの計算

途中で抜けたい、第三者を入れたいというときに困るのは、同意の要件と、抜ける人の持分をいくらと数えるかです。任意脱退の予告、除名の事由、払戻しの計算方法を決めていないと、話し合いが進みません。

競業避止の期間や範囲、事業で生まれた設備・アカウント・顧客情報の持ち出しのルールも、出入りの手続とあわせて書いておく必要があります。

事業を畳む方・すでに揉めている方

テーブルを囲んで資料を見ながら話し合う人たち

清算の順序と、書面で整理する方法

事業を畳むときは、解散の事由、清算を担う人、債権の回収と債務の弁済の順序、撤去や原状回復の費用、残った財産の分け方を、順番に決めていきます。「資産・負債を折半」の一行だけでは、評価の方法が決まりません。

すでに揉めているときは、書面がない場合に何が証拠になるか、帳簿の開示を拒まれたときの確認、合意書や変更の覚書で整理する方法を見ます。

このガイドの解説ページ

よくあるご質問

利益は折半とだけ書いておけばよいですか?

折半の割合は決まりますが、何を引いた残りを利益と呼ぶのかは決まりません。売上から引く費用の範囲、運営する側への報酬を費用に入れるか、留保金を残すか、利益をいつ確定するかを書いておかないと、毎月の分配の計算で食い違います。組合に当たる共同事業では、民法674条が損益の分配の割合を定めなかったときは出資の価額に応じるとしていますが、利益の中身を定めているわけではありません。

資金を出すだけの側でも、帳簿を見せてもらえますか?

組合に当たる共同事業なら、業務の決定や執行をする権利がない組合員でも、業務と組合財産の状況を検査できます(民法673条)。ただし、実際に使うには、口座の名義、報告の頻度、帳簿や証憑の開示の方法を契約書に書いておく必要があります。出資金と売上金の管理者を分けるときは、月次の突合の定めも置きます。

出資と貸付は、契約書の上でどう書き分けますか?

呼び名ではなく、事業の損益を一緒に負うのか、元本と利息を返す約束なのかで分かれます。出資と書きながら、出資金の全額の返還や、利益に関係のない確定した配当、遅延損害金を並べると、性質が読み取れなくなります。出資と決めたら、払込、損益の割合、払戻しを出資の考え方でそろえます。

共同事業から途中で抜けることはできますか?

組合に当たる共同事業で存続期間を定めていなければ、各組合員はいつでも脱退できます。ただし、やむを得ない事由がある場合を除き、組合に不利な時期には脱退できません(民法678条1項)。期間を定めていても、やむを得ない事由があれば脱退できます(同条2項)。契約書では、予告の期間、払戻しの計算方法、競業避止の範囲を決めておきます。

事業を畳むときは、誰が何をどの順で片付けますか?

解散の後は、清算人が現務の結了、債権の取立てと債務の弁済、残余財産の引渡しを行います(民法688条1項)。残余財産は、各組合員の出資の価額に応じて分けるのが原則です(同条3項)。契約書には、解散の事由、清算を担う人、設備の撤去や原状回復の費用の負担、在庫や顧客情報の扱い、残った財産の評価の方法を書いておきます。

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監修:アトラス行政書士法人(代表社員 荒木素子・特定行政書士) 最終確認日:2026年10月15日